DATA ARCHIVE- イギリス
イギリス - レポート
目次:
⑴ イギリスの移民状況
⑵ 子ども全体の貧困
⑶ 移民家庭の子どもの状況
① 移民家庭の子どもの貧困
② 移民家庭の子どもの学力
③ 移民家庭の子どもの健康
⑷ 移民・貧困子どもに関する支援政策
⑴ イギリスの移民状況
2019年頃時点、イギリスでは外国生まれの人口は総人口の約14%を占めている。このシェアは、米国やスペインとほぼ同程度である。一方、イギリスよりも外国生まれ人口の比率が高い国として、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド等がある。例えば、オーストラリアの外国生まれ人口の比率はイギリスの約2倍にあたる。対照的に、イギリスはイタリア、ポルトガル、大部分の東欧諸国と比べて、外国生まれ人口の比率が高くなっている(図1)。
移民の純流入数は、移民の全体的な規模を示す指標として一般的に用いられている。この指標では、イギリスへの転入者だけでなく、イギリスからの転出者も考慮に入れている。特に、移民の多くは永住するわけではないため、移民の純流入数は人口増加に対する移民の貢献を理解するのに役立つ指標である。
イギリスの移民純流入数に関する公式推計値はたびたび修正されている。例えば、2023年にONSは2022年6月に発表されたの移民純流入数の年間推計値を20%(102,000人)も上方修正した。つまり、国家統計局の最新推計によると、2022年1月~12月期の移民純流入数は60万6,000人である(図2)。
移民純流入数の増加は、主にEU域外からの移民増加によってもたらされた。EU域外から移民純流入数は2010年代から徐々に増え、2019年には18万4,000人に達した。移民の純流入数は2020年に新型コロナの影響で一時的に減少したが、その後急上昇し、2022年には662,000人に達した。これは、EU域外から移民数急増による結果であり、2022年のEU域外から925,000もの長期入国者が流入しており、2019年(364,000人)の2.5倍以上であった(図3)。
⑵ 子ども全体の貧困
イギリスでは、等価可処分所得の中央値の60%未満の 所得で生活する世帯に属する子どもの割合を「子どもの貧困率」と定義している。
Child Poverty Action Group(CPAG)の推計によると、2021-22年にイギリスで貧困状態にある子どもは420万人である。これは子ども総数の29%にあたる。
そのうち、ひとり親家庭で暮らす子どもの44%が貧困状態にある。ひとり親は、追加の稼ぎ手がいないことや養育費の受取率が低いこと、男女間の雇用格差、保育料負担などの理由により、貧困に陥るリスクが高い。
黒人や少数民族家庭の子どもの貧困率(48%)も高く、 白人家庭子どもの貧困率(25%)を大きく上回っている。
さらに、子どもが3人以上いる多子家庭の貧困率も42%と、白人家庭よりも高い。
⑶ 移民家庭の子どもの状況
2019年時点、18歳未満の子どもの6%(89万6,000人)が海外で生まれ、8%(108万2,000人)がイギリス・アイルランド国籍ではない。
海外生まれの子どもの約半数はEU加盟国で生まれている(うち、EU14カ国202,000人、2004年以降のEU加盟国199,000人)。非EU生まれの子ども(49万5,000人)のうち、8万8,000人(17%)がインド生まれ、8万4,000人(17%)が中東・北アフリカ(MENA)または中央アジア諸国生まれであった。
① 移民家庭の子どもの貧困
※「物質的はく奪度」とは、子どもの生活水準を把握するための指標であり、子どもに特定の財や活動を購入する余裕がない世帯の割合を指している。
両親ともにEU域外生まれの子どもの物質はく奪度は最も高く(46%)、両親ともにイギリス生まれの子ども(23%)の2倍にあたる(図6)。
② 移民家庭の子どもの学力
※PISA(Programme for International Student Assessment)とは、経済協力開発機構(OECD)が中3(15歳)の生徒の学力を評価するために行っている国際比較調査。
外国生まれの子どもや外国生まれの両親を持つ子ども(移民ルーツ児童)は、移民の背景を持たない生徒に比べ、15歳時点の学力テスト得点が低い。ただし、大部分のEU14カ国に比べて、イギリスでは、移民ルーツ児童と非移民ルーツ児童の学力差が比較的小さい(図7)。
③ 移民家庭の子どもの健康
イギリス政府は「子供の健康:移民の健康ガイド (Children's health: migrant health guide) 」で、移民子供たちが直面する健康課題を調査し、特に乳幼児や子どもの授乳、栄養、ビタミンA・D、ヨウ素の欠乏に焦点を当てており、低体重、過体重、成長の遅れなどの成長課題についても言及されていた。
移民の子どもの健康
- 移民の子どもたちは、出生国や出身国での発育チェックや予防ケアを受けていない可能性があります。
- 乳幼児の授乳、栄養状態、低体重、過体重、発育の遅れなどを評価することが重要です。
- ビタミンA・D欠乏症、ヨウ素欠乏症、貧血などの栄養不足が見られることがあります。
- 歯の健康、視力、聴力などの評価を行い、必要に応じて専門家に依頼すること。
- 虫歯予防のためのフッ化物塗布などの予防的歯科治療を提供する。
発達障害の特定
- 出生国や出身国で診断された障害や未診断の懸念事項を特定し、地元の支援サービスへのアクセスを支援する。
- 非移民の子どもよりも神経発達リスクが高いことに注意し、早期介入を促進する。
言語と文化
- 通訳や翻訳のガイダンスに慣れ、子供を通訳に使わないようにする。
- 宗教や文化によって異なる健康観に対応し、非感染性の環境危険への露出を考慮する。
- 移民家族が乳幼児と子どもを早期にGP診療所に登録するよう支援する。
脆弱な移民の子どもたち
- 子どもの移住経験による影響を理解し、感情的、行動的、身体的健康への影響を考慮する。
- 同伴者なしでイギリスに到着した子ども、庇護希望者、難民、女性性器切除(FGM)の経験者、人身売買の被害者、児童性的虐待や家庭内虐待の被害者など、特に注意を要する子どもたちのサポートを強化する。
⑷ 移民・貧困子どもに関する支援政策
・英語学習支援 (English for Speakers of Other Languages、1970年代~)
イギリス政府は、英語が母語ではない子どもたちに対して、英語学習の支援を提供している。具体的には、ESOL (English for Speakers of Other Languages) プログラムの提供や、移民の子どもたちが必要な場合には、特別な英語教育プログラムを提供することが含まれている。
・子ども手当(Child Benefit、1977年~)
子どものいる家庭に支給される公的給付である。所得制限を設けておらず、所得に関係なく、子どものいるすべての家庭に支給される。原則として、16歳未満(認可された教育訓練を受けている場合は20歳未満)の子どもを養育し、イギリスに居住している場合、子ども手当を受給できる。
・1989年児童法(The Children Act 1989)
イングランドとウェールズのすべての児童の保護と福祉に関する法的枠組みを定めたイギリスの重要な法律である。移民の子どものための宿泊施設や支援など、移民の子どもの保護に関する具体的な規定が含まれている。
・「すべての子どもが大切」運動(Every Child Matters、2003年~)
すべての子どもと若者が、その家庭の社会経済的背景にかかわらず、以下5つの目標を達成できるよう、支援を行うこと。
1.健康を保つこと
2.虐待、無視、差別、犯罪から守ること
3.学校での学習と個人的・社会的発達の実現を通じて達成すること
4.地域社会と環境を支援し、法律を守る行動によって、社会に積極的に貢献すること
5.経済的な豊かさを実現すること
・教育・生徒情報規定(The Education (Pupil Information) Regulations、2005~)
イングランドの学校に対し、移民の子どもを含むすべての生徒の出生国および国籍に関するデータを収集することを義務づけている。このデータは、移民の子どもの教育に関する国の政策に反映させ、学校や地方自治体が効果的な計画や資源配分を行うために利用される。
参考文献
“Children's Health: Migrant Health Guide.” Office for Health Improvement and Disparities, 28 June 2021, www.gov.uk/government/publications/migrant-health-guide-childrens-health/migrant-health-guide-childrens-health.
“Children of Migrants in the UK.” Oxford University Migration Observatory, 9 Aug. 2023, public.tableau.com/views/Childrenofmigrants2022/Fig7. Accessed 11 Nov. 2023.
“Child Poverty Facts and Figure.” Child Poverty Action Group, 2023, cpag.org.uk/child-poverty/child-poverty-facts-and-figures. Accessed 11 Nov. 2023.
Gualdi-Russo, Emanuela, et al. “Health, Growth and Psychosocial Adaptation of Immigrant Children.” European Journal of Public Health, vol. 24, suppl. 1, 2014, pp. 16-25. doi:10.1093/eurpub/cku107.
Mcrae, Isabella, and Hannah Westwater. “Child Poverty in the UK: The Definitions, Causes and Consequences in the Cost of Living Crisis.” The Big Issue, 2023, www.bigissue.com/news/social-justice/child-poverty-uk-definitions-details-causes-consequences/. Accessed 11 Nov. 2023.
“Net Migration to the UK.” Oxford University Migration Observatory, 9 Aug. 2023, migrationobservatory.ox.ac.uk/resources/briefings/long-term-international-migration-flows-to-and-from-the-uk/. Accessed 11 Nov. 2023.